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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2009「脳科学への数理的アプローチ」

Autumn School for Computational Neuroscience 2009

   ポスター(2.5MB程度)   

2009年10月31日(土)〜 2009年11月3日(火) かたくら諏訪湖ホテル


脳を数理で解き明かそう 〜実験的アプローチとの融合〜

脳の世界の謎は、人類の英知に最後に残された大きな砦です。 この数十年で、脳の中を観測する技術は飛躍的に進歩してきました。 しかし、実験的観測だけではどうにもならない謎が脳にはあります。 この謎を解く鍵となるのは、 物理学や情報学の世界で力を発揮してきた数理的アプローチです。 数理的アプローチによる脳の理解の一端を経験しながら、 脳科学への扉を開いてみましょう。

2009年テーマ 『視覚情報表現の獲得』

講師

Lecture I 谷藤 学(理研BSI) 「視覚的に捉えた物体像の脳内表現」
Lecture II 大澤五住(大阪大学) 「受容野概念の多次元空間への拡張と刺激選択性」
Lecture III 古川徹生(九州工業大学)  「高階データ表現の自己組織化と多システム学習」
Lecture IV  佐藤俊治(電気通信大学) 「受容野の数理モデルと機能的解釈」
Lecture V 林 隆介(理研BSI) 「心理物理現象から読み解く物体像処理のメカニズム」
Lecture VI 倉田耕治(琉球大学) 「多重自己組織化マップで獲得される情報表現」

対象:脳科学の数理的アプローチに興味を持っている方

大学院進学を考えている学部学生、大学院生、ポスドク研究員など。
 
定員:20名程度(応募者多数の場合、応募資料により審査を行います)
注: 既に数理的アプローチで脳研究を行っている方には、 チューターをお願いするかもしれません。

参加費無料(合宿形式;全日程参加可能な方限定)

応募日程

運営

加藤 英之(理研BSI−トヨタ連携センター)
鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)
山本 慎也(産業技術総合研究所)
樺島 祥介(東京工業大学)

共催

日本神経回路学会
文部科学省科研費・統合脳5領域
文部科学省科研費・特定領域研究「情報統計力学の深化と展開」

 
 
 
 
 
 
 

個人情報の取り扱いについて

以上のことを同意の上、ご応募ください。
 
 
 
 
 
 
 

講義スケジュール

特別招待講演以外は、1講師1トピックについて、 以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「事前知識レクチャー」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「演習」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「演習発表及びレクチャー」(約1時間)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。 各グループの意見に対する見解を交えながら、 講師による解説を行います。


10月31日

13:00-13:15 開催の辞


Lecture I 「視覚的に捉えた物体像の脳内表現」

講師: 谷藤 学(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

13:15-14:15 事前知識レクチャー

14:15-16:15 演習

16:15-17:15 演習発表及びレクチャー


17:30-17:45 特別討論課題の出題(全日程を通した討論課題)

担当:一戸 紀孝(弘前大学)


19:00-21:00 Welcome party


11月1日

Lecture II 「受容野概念の多次元空間への拡張と刺激選択性」

講師: 大澤 五住(大阪大学大学院 生命機能研究科)

補佐:佐々木 耕太(大阪大学大学院 生命機能研究科)

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 演習

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 演習発表及びレクチャー


Lecture III 「高階データ表現の自己組織化と多システム学習」

講師: 古川 徹生(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)

補佐:徳永 憲洋(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)

14:30-15:30 事前知識レクチャー

15:30-18:00 演習

18:00-19:00 夕食

19:00-20:00 演習発表及びレクチャー


11月2日

Lecture IV 「受容野の数理モデルと機能的解釈

〜初期視覚細胞の受容野は何のために存在しているのかをあらためて問う〜」

講師: 佐藤 俊治(電気通信大学大学院 情報システム学研究科)

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 演習

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 演習発表及びレクチャー


Lecture V 「心理物理現象から読み解く物体像処理のメカニズム」

講師: 林 隆介(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

14:30-15:30 事前知識レクチャー

15:30-18:00 演習

18:00-19:00 夕食

19:00-20:00 演習発表及びレクチャー


11月3日

Lecture VI 「多重自己組織化マップで獲得される情報表現」

講師:倉田 耕治(琉球大学工学部機械システム工学科)

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 演習

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 演習発表及びレクチャー


特別討論課題の解説

担当:一戸 紀孝(弘前大学)

14:30-16:30


解散


 
 
 
 

概要


Lecture I 「視覚的に捉えた物体像の脳内表現」

講師: 谷藤 学(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

日常生活の中で私たちは自然にモノを見つける(物体像を認識する)ことができる。その容易さゆえに、複雑な脳の仕組みがそのために必要だとはなかなか考えられない。しかし、ひとたび計算機やロボットに同じことをさせようとすると、すぐにそれがきわめて難しいことだとわかる。私達は特別な物体認識の仕組みを持っているのである。そもそも、物体像が脳の中でどのように表現されているのだろうか(物体像の脳内表現)。本講義では、光学的計測法と電気生理学的方法を組み合わせることによって、物体像の脳内表現の問題にどこまで迫れるか述べたいと思う。

さて、情報の脳内表現の研究に最近広く使われるようになった技術にfMRIがある。神経活動を(血液動態を通して)間接的に可視化する技術で空間分解能は光計測法ほどないが、非侵襲的な技術なので広く使われるようになった。この方法を使って物体像の表現の問題に取り組んでいる研究がいくつかある。面白いことにその結果は光計測と電気生理学的計測を使って得られた結果と一見矛盾するのである。演習とその後の解説では、何故この一見矛盾する結果が出るのか考えてみたい。

  1. Tsunoda, K., Yamane, Y., Nishizaki, M., Tanifuji, M. (2001) Complex objects are represented in macaque inferotemporal cortex by the combination of feature columns. Nature Neurosci. 4, 832-838
  2. Yamane, Y., Tsunoda, K., Matsumoto, M., Phillips, A.N., Tanifuji, M. (2006) Representation of the spatial relationship among object parts by neurons in macaque inferotemporalcortex. J. Neurophysiol. 96, 3147-3156
  3. Sato, T., Uchida, G., and Tanifuji, M. (2009) Cortical columnar organization is reconsidered in inferior temporal cortex. Cerebral Cortex 19, 1870−1888

Lecture II 「受容野概念の多次元空間への拡張と刺激選択性」

講師: 大澤 五住(大阪大学大学院 生命機能研究科)

視覚系の細胞の反応特性を考える上で、古典的な考え方は次のようなものだろう。すなわち、視覚受容野は(x,y)空間で刺激が細胞の反応に影響をあたえる範囲として定義される。さらに細胞は、この受容野内に提示される刺激の様々なパラメータに対し刺激選択性を持つ。このような従来の概念を否定するものではないが、私は受容野の概念を(x,y)空間に限定するのでなく、多次元空間への拡張することが、今後の視覚神経科学の展開に一つの重要なアプローチを与える事になると考えている。視野マップは高次領野でも存在するが、(x,y)空間での選択性は階層を上がるにつれ弱くなる。本質的には視覚に必要な処理はこの最初の視野空間に縛られる必要はないはずである。そこで、網膜/視野上での座標系を敢えて忘れ、全ての意識的な視覚情報処理の起点として一次視覚野の持つ表現から考え直してみたい。

講義では、視覚刺激と細胞の特性を多次元空間において考えるというアプローチの実例を紹介し、演習では実際に自然画像あるいは人工的に生成した視覚刺激を様々な多次元空間において観察する。できれば、今後の高次視覚野細胞の特性を研究する上で使う事ができる、新たな多次元空間を想起したい。


Lecture III 「高階データ表現の自己組織化と多システム学習」

講師: 古川 徹生(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)

従来の学習機械(たとえばニューラルネットによるパターン認識装置や制御装置)と現実の脳を比べたときの大きな違いとして,扱うデータの質的な多様性や機能的な多様性がある.たとえば,顔認識システムは視覚入力から人物が特定することが目的だが,実際の脳はポーズや表情,時には健康状態に至るまで,さまざまな情報を抽出した上で,それらを統合して理解する.また手足の制御はタスクに応じてまったく異なる様式で行わなければならない.

多様性の増加は,学習機械の規模を大きくしても解決できない困難が生じる.主な問題点として (1) データ数・タスク数の増加に伴う学習効率の極端な低下 (2) 記憶の混乱,タスク間の干渉 (3) 個々のケースの学習データ不足(場合の数が指数関数的に増加するため,個々のケースのデータ数は逆に不足する)(4) 分業のための基準が不明 (5) ヘテロなタスク間での汎化の困難さ (5) 単に学習するだけでなく,高次の情報抽出や統合が不可欠,などがある.

これらの要求を満たす学習機械の設計は容易ではなく,従来型のニューラルネットを単に大規模化したり,たくさん並べたりしただけではうまくいかない.すなわち学習の困難さは量的なものではなく,質的な問題なのである.本講義では,高階のデータ表現の自己組織的な獲得(これは倉田先生のテーマでもある)およびマルチチステムの自己組織的な学習について解説するとともに,新しい学習スキームの必要性について議論する.


Lecture IV 「受容野の数理モデルと機能的解釈

〜初期視覚細胞の受容野は何のために存在しているのかをあらためて問う〜」

講師: 佐藤 俊治(電気通信大学大学院 情報システム学研究科)

視覚情報処理の基盤であるV1単純型細胞の受容野について、画像工学的・計算論的考察を行う。視覚情報処理を理解するには、生理学的実験はもちろんのこと、実験結果を記述する数式=数理モデルの研究が欠かせない。候補となる数式は無数に存在するため、候補の中からその代表を一つ選択するためには、選択基準を明確にする必要がある。

基本となる選択基準は、「現象をよく近似すること」である。たとえば、V1単純型細胞の空間的受容野がGabor関数でよく近似できることはよく知られている。その他重要な基準として、「式の意味が明確であること」があげられる。たとえばGabor関数は、空間不確定性と周波数不確定性の積を最小化する関数として知られており、一見すると明確な意味を持つ。

しかしながら、これらの基準は十分ではない。「画像工学的に有効性が高いこと」、そして「高次視覚野の理論につながる発展性があること」も重要である。Gabor関数はこれらの選択基準を満足するであろうか?

近年の脳研究では、統計学が非常に重要な道具であり主流である。が、本講座ではあえて統計的アプローチは行わなず、解析的アプローチ,ならびに画像工学的アプローチにより受容野の数理モデルの導出を試みる。演習では、導出した受容野モデルとGabor関数(Gaborモデル)を上記基準に照らし合わせてバトルを行う。


Lecture V 「心理物理現象から読み解く物体像処理のメカニズム」

講師: 林 隆介(理化学研究所 脳科学総合研究センター; さきがけ)

ヒトの視覚情報処理を理解するうえで、計算論的研究や電気生理学的なアプローチとともに、実験心理学的手法が有効です。とくに、脳機能活動の計測手法が成熟しつつある現在、すぐれた視覚実験パラダイムを構築することの重要性が増していると考えます。

本講義では、V1以降の物体像処理に関わる心理物理現象を概説しつつ、近年脚光を浴びている「視覚的意識」の研究において、どういった心理物理実験手法が用いられているのかご紹介します。

演習では、講義で紹介した視覚刺激を作成してもらい、実際に被験者となって実験をしていただいた上で、その背後にある脳内情報処理について、みなさんと議論したいと思います。


Lecture VI 「多重自己組織化マップで獲得される情報表現」

講師:倉田 耕治(琉球大学工学部機械システム工学科)

自己組織化マップ(SOM) は大脳皮質の学習モデルとして最もよく研究されているものであり,データ処理への応用も多い.SOMを発展させる方法として,SOMを構成する素子 (ニューロン)をもっと複雑な機能を持つものに置き換えるという方向があるが,その他に,SOMをさらに大きなシステムのなかの構成要素として用いる,または複数のSOMを連結したシステムを考えるという方向も考えられる.この講義では後者の方向の試みについて述べる.

研究の発端は一つのSOMに複数の情報を重ねてマップするというアイデアで,これはSOMに先駆ける甘利の自己組織神経場の方程式がら導かれる.これが反ヘブシナプスによって結合された複数のSOMというモデルに発展した.このモデルは非線形の独立成分解析器である.例えば短い線分の位置と傾きを独立に生成して提示するなら,単純型細胞と複雑型細胞は非線形独立成分解析の結果と解釈できる.その他にも文字の種類と位置,人物同定と表情認識,楽器音の音色と音程など,脳の行っている認識には独立成分解析と理解できるものが多い.

2次元のSOMで5次元の情報を学習したとき第1次視覚野の機能地図が再現されたように,自己組織モデルにおける次元のミスマッチは時に面白い現象を引き起こす.たった一つの成分を無理に二つの非線形独立成分に分けたとき形成される多進法表現と,その結果として表れる嗅内皮質のグリッド細胞に似た受容野を紹介する.